いよいよ発売!夕陽コレクターズBOX

セルジオレオーネ生誕80周年を記念したDVD6枚組アンソロジー、「夕陽コレクターズBOX」が2009年12月16日に発売になる。定価は13,300円で3000セットの数量限定発売。夕陽三部作の完全版が収録されていることはもちろん、以前は日本語吹き替えが足りない部分(TV放映当時カットされたシーン)は字幕に戻ってしまうという問題があったが、吹き替え追加収録を行うことで「日本語吹替完声版」を実現している。アレックス・コックスや当サイトの舘主セルジオ石熊も参加した究極の解説ブックレット封入。買い逃したら、一生後悔間違いなし!とタランティーノも太鼓判だ!

タランティーノ
(タランティーノ氏が手にしているのは同時発売の「夕陽のギャングたち・アルティメット・エディション」4,990円)

ウエスタンお好み大食堂

スキヤキ・ウエスタンが飽き足らない方はお試しあれ

『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』の公開でウエスタンに注目が集まっている。映画のほうは賛否両論かまびすしいが、目に付くのが「マカロニじゃない」という批判(そういうこという人ほどマカロニ・ウエスタンとは何か知らないやつが多いんだな、これが)。そもそも、マカロニは「なんでもあり」が真骨頂。ウエスタンという上着さえ羽織っていれば、戦争だろうが、カンフーだろうが、ニューシネマだろうが、メロドラマだろうが、ホラーだろうが、何でも取り込んでしまう懐の深さこそマカロニの魅力なのだ。しかも『〜ジャンゴ』の監督は、最初から「これは“スキヤキ・ウエスタン”でっせ」とことわってるんだから、「マカロニじゃない」とか「オマージュになってない」とかいった批判は的外れ。別にオマージュするために映画作ってるんじゃないだろうし。ま、“肉や野菜のゴッタ煮しょうゆ味”ウエスタンを楽しんだ方もそうじゃなかった人も、世界の珍味ウエスタンを味見してみては?
 
ソーセージ・ウエスタン
 
 そういう名称があるのかわかんないが、ドイツ製ウエスタンをとりあえず我々は「ソーセージ・ウエスタン」と呼ぶのである。「アイスバイン・ウエスタン」でもいいけどさ。ドイツ(当時は西ドイツ)はマカロニ・ウエスタンにも重要な役目を担っていた。共同制作として『荒野の用心棒』はじめ多くのマカロニに参加。クラウス・キンスキーなど、重要な俳優も輩出した。なのに、なぜか、監督やスタッフにはあまりドイツ人はいなかった。どうしてなんでしょうね。第二次大戦の影響でイタリア人が一緒に働くのを嫌がったのでしょうか。
 実はイタリアより先にウエスタン・ブームに沸いたのは西ドイツ。カール・マイという一度もアメリカにすら行ったことのない作家が書いた西部小説「ウィネットー」シリーズが大人気を呼び、ハラルト・ラインル監督による『シルバーレークの待伏せ』が作られたのが1962年(西ドイツ公開は12月)、続いて『アパッチ』(63)『夕陽のモヒカン族』(64)『大酋長ウィネットー』(65)が作られた。主人公のウィネットーはフランス人のピエール・ブリス、インディアンのオールド・シャターハンドを元ターザン俳優のニューヨーカー、レックス・バーカーが演じるという、主演俳優出稼ぎ方式なのも感慨深い。日本でもマカロニブームに乗って全4作が公開されたが、真面目で地味な内容、暗いロケーション(主にユーゴスラヴィアで撮られた)のためかドイツのように大ヒットとはいかなかった。ヨーロッパではDVDも発売されている。
 ドイツはマカロニ大国でもあり、ウエスタン人気は今も昔も高いようだが、近年も『マニトの靴』(01)なる珍妙なコメディウエスタンが作られ記録的大ヒット、驚いたことに日本でも公開された。DVD題名は『荒野のマニト』になってますが、レンタル屋さんにあるでしょう。内容は……うーむ、でしたな。
 
Der schuh des manitu
 

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【 Special Report 】ヴェネチア映画祭マカロニ特集の全貌

第64回ヴェネチア国際映画祭においてサブ企画として、8月29日から9月8日までマカロニ・ウエスタンの特集上映「Western all’italiana」が開催された。

上映されたのは31本。当初、キュレーター役を務めるはずだったクエンティン・タランティーノはマニラ映画祭でオイタが過ぎたために腰痛を発症し、欠席。推薦していたクラウス・キンスキー主演、アントニオ・マルゲリティ監督の『そして神はカインに語った<未>』(1969)は上映不能となり、かわりに工藤栄一監督、若山富三郎主演の『五人の賞金稼ぎ』(69)が上映された。これは若山富三郎主演による東映「賞金稼ぎ」シリーズ一作で、オールバックに口ひげの医者がウエスタンさながらの銃を撃ちまくる時代劇。果たして、この作品が「Western all’italiana」(イタリア製西部劇)と呼べるのかどうか……は、ともかく、映画祭の喧騒とは離れた町場の上映会場はイタリアはもとよりヨーロッパ各地から集まったマカロニファンの熱気で盛り上がった。
 
本邦未公開作は、ティント・ブラス監督の唯一のマカロニ『ヤンキー<未>』、ロバート・ハンダー主演『テキサスの七人<未>』、ロバートウッズ主演『賞金無用、首はもらった<未>』、ヴァン・ヘフリン、クラウス・キンスキー主演の『サム・クーパーの黄金<未>』、ルー・カステル主演『マタロー<未>』の5本。ちなみに、上映は一部はフィルム、大部分はDVD用にリマスターされたビデオ上映だった模様。
 
同時に映画祭ではマカロニ・ティーチインも行われ、多くのマカロニ人が参加した。参加メンバーは、ジュリアーノ・ジェンマ、フランコ・ネロ、ファビオ・テスティ、トニーノ・ヴァレリィ、ジュリオ・クエスティ、エンツォ・G・カステラッリ、カルロ・リッツァーニ、ティント・ブラス、ルイス・エンリケス・バカロフ、パスクァレ・スクイティエリ、セルジオ・ドナティ、アレッサンドロ・アレッサンドローニなど。また、映画祭では、エンニオ・モリコーネ・オーケストラ、アレッサンドロ・アレッサンドローニによるコンサートも開かれた。
 
マカロニ特集の小冊子
 
マカロニ特集の小冊子。上映全作品の解説つき、全52ページ。
 
Western all’italiana 上映作品一覧

『テキサスの七人<未>』I sette del Texas (Antes llega la muerte) (1964) Joaquin Luis Romero Marchent
『荒野の10万ドル』 100.000 dollari per Ringo (1965) Alberto De Martino
『続・荒野の1ドル銀貨』 Il ritorno di Ringo (1965) Duccio Tessari
『ネブラスカの一匹狼』 Ringo del Nebraska (1965) Mario Bava e Antonio Roman
『荒野の1ドル銀貨』 Un dollaro bucato (1965) Giorgio Ferroni
『続 荒野の用心棒』 Django (1965) Sergio Corbucci
『ガンクレイジー』 The Bounty Killer (1966) Eugenio Martin
『復讐のガンマン』 La resa dei conti (1966) Sergio Sollima
『さすらいのガンマン』 Navajo Joe (1966) Sergio Corbucci
『必殺の用心棒』 Sugar Colt (1966) Franco Giraldi
『帰って来たガンマン』 Un fiume di dollari (1966) Carlo Lizzani
『ヤンキー<未>』 Yankee (1966) Tinto Brass
『二匹の流れ星』 10 000 dollari per un massacro (1967) Romolo Guerrieri
『さすらいのデスペラード』 El Desperado (1967) Franco Rossetti
『拳銃無宿のバラード』 Il tempo degli avvoltoi (1967) Nando Cicero
『オーウェルロックの血戦』 La morte non conta i dollari (1967) Riccardo Freda
『情無用のジャンゴ』 Se sei vivo spara (1967) Giulio Questi
『サム・クーパーの黄金<未>』Ognuno per e(1967) Giorgio Capitani 
『皆殺しのジャンゴ/復讐の機関砲』 Preparati la bara (1967) Ferdinando Baldi
『復讐無頼・狼たちの荒野』 Tepepa (1968) Giulio Petroni
『十字架の長い列』 Una lunga fila di croci (1968) Sergio Garrone
『賞金無用、首はもらった<未>』La taglia e tua l’uomo l’ammazzo io (1969) Edoardo Mulargia
『風来坊/花と夕日とライフルと…』 Lo chiamavano Trinita(1970) Enzo Barboni
『マタロー<未>』 Matalo! (1970) Cesare Canevari
『ガンマン大連合』 Vamos a matar companeros (1970) Sergio Corbucci
『ガンマン無頼/地獄人別帖』 La vendetta e un piatto che si serve freddo (1971) Pasquale Squitieri
『怒りのガンマン/銀山の大虐殺』 Il grande duello (1972) Giancarlo Santi
『荒野のドラゴン』 Il mio nome e Shangai Joe (1973) Mario Caiano
『要塞攻防戦/ダーティ・セブン』 Una ragione per vivere e una per morire (1973) Tonino Valerii
『荒野の処刑』 I quattro dell’apocalisse (1975) Lucio Fulci
『ケオマ・ザ・リベンジャー』 Keoma (1976) Enzo G. Castellari

エンニオ・モリコーネ、釜山映画祭にご立腹!

 第12回釜山国際映画祭で名誉賞を受賞するべく参加していたマエストロ・エンニオ・モリコーネが、開会式の不手際がお気に召さなかったのか、予定されていたハンド・プリンティング(ハリウッドにある手形を残すやつですね)式出席をキャンセルしてさっさと帰国してしまったそうだ。
 10月2日と3日にソウルでコンサートを行い、4日に映画祭に参加したモリコーネ夫妻は雨の中をレッドカーペットの上をえんえん歩かされ、果ては係員から無理やり早く歩くようせかされたらしい。79歳の巨匠とその愛妻をそんな目に合わせるとは、儒教の国とは思えない扱いだが、まあ、係員が「このじいさん、誰や?」と思ってたのかもしれない。映画とは直接関係ない来場だし。これがハリウッドだったら、クリント・イーストウッドが傘持ってお迎えしたと思うが、時すでに遅し。あえあえあ〜!
 モリコーネは2年ほど前にも一度韓国公演が予定されたが、事前にキャンセルされていた。今回、ようやくコンサートが実現したのにこの有様。もしかすると、突然の帰国は韓国にはおいしいイタリア料理店がなかったからではないかという噂もある。とにかく、マエストロ、お体に気をつけて。

「デッドウッド〜銃とSEXとワイルドタウン」放映開始!

デッドウッドといえば1870年代にゴールドラッシュで栄えた町で、ワイルド・ビル・ヒコック、カラミティ・ジェーン、ワイアット・アープ、ドク・ホリデーなどのウエスタン史上に名高いガンマンたちが集った所。そこには全米各地から集まった人間たちの欲望が渦巻き、酒と薬と売春がはびこり、死体はブタが食い、通りは泥だらけで、法律など存在しないも同然だった。
 第1話はウォルター・ヒルが監督、ワイルド・ビルが町へ到着するが、同時に先住民に開拓一家が殺される事件が発生する。殺された一家の死体はバラバラ、頭を剥がされ、狼に食われてる、なんて強烈描写はルチオ・フルチも遠慮したかも。主演は、町を仕切る酒場の店主アルに『電撃脱走・地獄のターゲット』『オスロ国際空港/ダブル・ハイジャック』などの英国俳優イアン・マクシェーン、ワイルド・ビルにキース・キャラディンなど。

マカロニウエスタン・ミュージック

 マカロニに関係があるといえばあるけれど、ないと言ってしまえばそれだけのような話。
 マカロニ・ウエスタンは音楽とは切ってもも切り離せない。巨匠エンニオ・モリコーネの名前を挙げるまでもなく、マカロニ・ウエスタンのイメージ作りに映画音楽は非常に大きく貢献しているからだ。しかし、映画音楽の話は、マニアの間で語り尽くされていると思うので、ここではマカロニのイメージを投影した、映画音楽以外の音楽を紹介していこう。
 
 最初に紹介するのは、「スパゲティ・ウエスタン・ストリングス・コーポレーション」”The Spaghetti Western String Co. “ま、まさにそのものズバリの名前ですが、とくにマカロニ・ウエスタン・ミュージックを演奏するというわけでなく、ミネアポリスで結成しされた、現代音楽トリオである。中心人物がイタリア系だということのようだ、チェロのイーサン・サットン、バンジョー&ギターのマイケル・ロセット、マンドリン、ギター、ボーカルのニコラス・レンからなるグループで、クラシック/現代音楽をベースにジャズ、ウエスタン、フォークミュージックまで、広い要素を採り入れたステージを行っている。演劇やパフォーマンス・アートとコラボレーションすることも多いようだ。
 音楽は、古い映画音楽のようでもあり、心地よいクラシックのようでもあり、ウエスタン・カントリー的雰囲気も随所に見受けられる。全体としては、マカロニというイメージよりは、ややインテリ風の音楽ではあるけれど……。
 公式サイト
 
 バイオリンのソロを加えた、ミシシッピでの公演。


  
 次に紹介するプレファブ・スプラウトは、ブリティッシュロック好きにはかなり名の通ったバンドである。80年、90年代を通して、イギリスで最も愛されたバンドとも言われているオシャレ系バンドの彼等は一見マカロニとは縁遠いと思われるが、意外にもかなりウエスタン好きらしい。
 2001年に発売された(現在のところの)最新アルバム”The Gunman and Other Stories”では、突然「ウエスタン」をテーマに取り上げて、ファンをあっと驚かせた。
 しかし、ウエスタンと言っても、その音楽的感性はアメリカ人のウエスタン感とはどーも違う!耽美ロック界の巨匠・トニー・ヴィスコンティ(ブルックリン生まれのイタリア系)をプロデューサーに迎えたアルバムは、必然的にマカロニ要素”哀愁”を多く含んだものになっている。
 
 Prefab Sprout – Cowboy Dreams プロモーションビデオ

暁の用心棒

 ほとんどセリフがないのが幸いしてか、アメリカでスマッシュヒットとなり、続編も作られた「見て楽しむマカロニ」。何があっても決して焦らない飄々とした流れ者の主人公の動きにあわせたのか、ゆったりしたリズムを刻むエレキギターの音色が全編まか不思議なムードを醸しだす。テンポは早くないのに、リズム感があるので楽しめるのだ。
 人影のないメキシコの村へ流れ者がやってくる。この暑いのにポンチョのかわりに毛布を肩に巻いたヒッピースタイル。トニー・アンソニーは背が低いヤサ男。すでに『荒野の用心棒』のパロディみたいだ。まったく名前は名乗らないので、まさに「名無しの男」でもある。

暁

 アメリカ軍からの援助金を受け取りにきたメキシコ政府軍を、盗賊のアギーラ(フランク・ウォルフ)がマシンガンで皆殺しにし、政府軍に化ける。それを見ていた流れ者が、突然、騎兵隊の衣装を着こんで登場、金を山分けにするならアメリカ人の俺が話をまとめてやると持ちかける。取引は成功し、金を見事に奪うが、アギーラは分け前は1ドルコイン一つだと言い渡す。当然、銃撃戦。が、流れ者は一人なのにやたらに強く、次々とアギラの部下が殺られていく。暗闇の中で激しく光る銃の焔が美しい。アギーラはたまらず、部下を引き連れて逃げる。不気味に追跡していく流れ者。
 アギーラに捕まった流れ者は拷問にあうが、アギーラの情婦で賞金つきのならず者でもあるマリアを倒し、さらわれた女を連れて逃げ出す。町へ戻った流れ者は、女に渡された散弾銃で次々とアギラ一味を倒していく。このショットガンを腰だめで撃つスタイルはそれまでのマカロニにはなかった味わいでカッコイイ。ペキンパーも『ゲッタウェイ』でマックィーンにやらせたが、これの影響かも。日本では一足先に二谷英明が『散弾銃の男』(1961年 監督=鈴木清順)なんてのをやっていたけど。
 最後は、散弾銃の流れ者とマシンガンのアギーラが決闘する。アギーラの口癖「俺はどんな男だ?(フェアな男さ)」を流れ者が口にし、フェアな戦いを匂わせておいて、なんのことはない流れ者は先に銃口を開いてあっさりアギーラを撃ち殺すしてしまう。ここは笑い所だ。死んだアギーラの口に1ドル銀貨を挟む流れ者(原題は「歯の間の1ドル」)。井戸から金の入った袋を2つ引き上げると、そこへ騎兵隊が金を取り戻しにくる。流れ者は、動揺もせず賞金首の分として袋を一つもらい、「経費が1ドルかかってる」とうそぶいて去っていく。正義などまるで興味がない、ウサンくさーい賞金稼ぎのアンチ・ヒーローなキャラクターが素晴らしい。
 騎兵隊の指揮官を演じているのは、『荒野のドラゴン』でチェン・リーにやられていたデンマーク人のラース・ブロックだ。